日本国内で若手からベテランまで幅広く信頼を集めるトランペッター、鈴木雄太郎が、自身のサウンドを追求すべく単身スイス・バーゼルへ渡航。彼の持つ音色とリリカルなプレイは高く評価され、ラリー・グレナディアも絶賛。2週間にわたる現地ミュージシャンとの交流を経てレコーディングが行われ、待望のデビュー・アルバム『Beyond The Arctic』が誕生した。
レコーディング・メンバーには、慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイエティ時代からの盟友であり、クリス・チークやジェフ・バラードらからも高い評価を得るドラマー土岐洋祐。さらに、バーゼル音楽大学 Jazz Campus の精鋭バンド “Focus Year” に在籍した実力派ベーシスト、アリステア・ピール。そして、ゲイリー・バートンやデイヴ・リーヴマンらとの共演で知られる世界的ピアニスト、アイディン・エセンを迎えた。アイディンはバークリーの学生からも“天才”と称され、タイガー大越のバンドでも活躍。1990年前後に発表したトリオ作は日本のリスナーから絶大な支持を集め、現在はヨーロッパを拠点に後進の育成に力を注ぎ、リスペクトを集めている。
全6曲で構成された本作は、美しくも重厚なワルツによるオープニング「Birds Of The Air」から独自の世界観が満ちる。シンプルで幻想的な旋律が淡々とハーモニーを重ねていく「Ballad-ette(M4)」と、この2曲は、いずれも鈴木のオリジナルであり、続く名曲群と並べても遜色なく、新たなスタンダードとなり得るポテンシャルを秘めている。
スタンダードには、故郷・新潟で震災復興に尽力して名誉市民となったデューク・エリントンの「Reflections In D(M2)」、多くのミュージシャンと音を重ねてきた「I Hear A Rhapsody(M3)」、そして最も敬愛するチェット・ベイカーのレパートリーであり、自身のサウンドの原点でもある「Stella By Starlight(M5)」など、珠玉の名曲が並ぶ。アルバムを締めくくるのは、9 小節という短いインターバルとモチーフを丁寧に反復しながら展開する「Hokago(M6)」。土岐洋祐によるこの作品は、ミニマルな構成の中に繊細さと色彩豊かな表情を織り込む手法で、ヨーロッパを拠点に活動を重ねてきた彼ならではの視点を感じさせる。
異なる出自や文化背景を持つミュージシャンたちの邂逅から生まれた、“一期一会”の音楽をテーマに据えた本作。「流れに身を委ねる」姿勢で臨んだというが、その演奏はあたかも最初から構築されていたかのような必然性と様式美を備える。詩情と静寂を内包しつつ、流麗に変化していくサウンドは確かな説得力を持ち、鈴木雄太郎という気鋭のトランペッターにとって大きな転換点となる作品に仕上がった。マスタリングは、Wolfgang Muthspiel Trio(with Scott Colley, Brian Blade)の ECM 作品なども手がけた PICCOLO AUDIO WORKS の松下真也が担当している。(新譜インフォより)
1. Birds of the air (Yutaro Suzuki)
2. Reflections in D (Duke Ellington)
3. I hear a rhapsody (George Fragos)
4. Ballad-ette (Yutaro Suzuki)
5. Stella by starlight (Victor Young)
6. Hokago (Yosuke Doki)