★復調して以来益々意気盛んな快進撃を続ける詩情派モダン・ピアノの独創的名匠=ヴェテラン:フレッド・ハーシュ(1955年米オハイオ州シンシナティ生まれ)の、今回は、長年の共演仲間であるドゥリュー・グレス(b)&ジョーイ・バロン(ds)とのトリオによる、この顔ぶれでのスタジオ・レコーディングは初めてになるという、スイス-ルガーノで吹き込まれた一編。エンジニアはステーファノ・アメーリオ。
★繊細かつ端正な、しっとりとした潤いや透明感に溢れるクリスタル(或いは水滴?)風タッチのピアノが、流れるような嫋やかさをもって奥深い憂愁を精細に描き出し、またある時はバップやモードもしくはブルースのイディオムを使ってダイナミックなアクションを繰り出すスウィンギン節をも歯切れよくしかも軽やかにキメる、トータルなアウトラインとしては耽美派詩人の側面が勝った印象のテンダー&ムーディーでいて鋭く研ぎ澄まされた風合いもあるメロディック・プレイを、只呼吸するかの如き自然さ・無欲恬淡さで綴って殊の外瑞々しくもどこか儚げな煌めく華を成し、これに的確な合いの手を入れつつ安定したニュアンス濃やかなリズムを刻むドラム&ベースのバックアップも、頼もしく巧緻に魅力を際立たせた、全体を通じハーシュ一流の穏やかできめの細かいポエティシズム世界が中々簡潔に創出されて、じわりと静かに感動させられるさすがの熟達内容。
★旋律や和声の端麗さ並びに詩情、そして浮遊感を孕むも敏活なノリのよさ、を変らず大切にし、根底にはブルースやバップのフィーリングも巧まず隠し味的に備わった、物悲しさとマイルドな歓喜が細かに交差するこのレーベルらしいセンシビリティ満点のロマネスク妙演が優しくエレガントに展開してゆき、大きくウネるグレス(b)やシャープに空を斬るバロン(ds)、らの決して出しゃばらぬも機微に溢れたスリル&グルーヴを提供する芸達者なサポートに上手くいざなわれながら、ハーシュ(p)の、リキまぬ自然体を保ってのちょっと達観したようでもある流麗なアドリブ技が、鮮度抜群にして行間余情に富む無双の冴えを、キレを見せて全く素晴らしい。
→1曲1曲は長すぎぬ程好い尺にまとめられた進行構成の中、ECMに相応しくスペイシーな空間設計センスも光る心象風景スケッチ風のバラード解釈が大半の場面で哀切に燦めいている他、オーネット曲"Law Years"ではバップ・ピアノ特有の殺陣性とクール・ジャズっぽさ加えて半アブストラクト傾向の一体化した力学手法に硬派なメインストリーマーぶり・スインガーぶりを底力然と発揮し、スタンダードの"Embraceable You"辺りではアメリカン小唄派バッパーらしい軽妙洒脱さもしくはエヴァンスの流れをストレートに汲むその正統たる浪漫志向者面がフレッシュに花開いたりと、何げに引き出し多く懐の広い語り口の粋が悠々と示されており、一貫して親しみやすくも深遠なる抒情詩人の本領がナチュラル・デリケートに振るわれる様は得難い幽玄に満ちている。
1. プレインソング
2. ロウ・イヤーズ
3. ザ・サラウンディング・グリーン
4. パリャーソ (道化師)
5. エンブレイサブル・ユー
6. ファースト・ソング
7. アンティシペーション
Fred Hersch フレッド・ハーシュ (piano)
Drew Gress ドリュー・グレス (double bass)
Joey Baron ジョーイ・バロン (drums)
2024年5月スイス-ルガーノ、オーディトリオ・ステリオ・モロ RSI録音
レーベル:
Universal Music Japan ECM
在庫有り
国内盤スリーヴケース仕様SHM-CD
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