★キース・ジャレット(p)(1945年米ペンシルヴェニア州アレンタウン生まれ)の、ソロ・ピアノによる(現時点での)最後のヨーロッパ・ツアー中、2016年7月9日オーストリア-ウィーンでのコンサートの模様を収めた未発表ライヴ音源の初ディスク化(この2016年夏の一連の欧州ツアーからのライヴ・アルバム化は、ミュンヘン、ブダペスト、ボルドーに続きこれが4作目となる)。
★端正で精確な、歯切れよく躍るクリスタル風でありゴツい岩石のようでもある明晰タッチのピアノが、不協和音とアブストラクトな幾何学的フレーズの連打でシビアに、かつ軽やかに押しまくる現代音楽寄りの記号性&実験色濃いアプローチであったり、より穏やかに安らいだ息遣いでメディテイティヴな心象風景をじっくりスケッチする陰影に富んだビタースウィート風味のバラード表現であったり、一定のリズミカルなビート・グルーヴ感を醸成しつつシリアスでブルージーな物憂げ節を繰り出すピリッとしたニューエイジ・ミュージック調であったり、一転してマイルド・テンダーな耽美派ロマンティストの極みを見せた優しさと温もり溢れるリラクシング路線であったりと、硬軟の振り幅大きくも唯一無二なる"ジャレット構文"の完成形を揺るぎなく示したインプロ・プレイを流麗に綴って、スリリングかつムーディーに昂揚させ、また和ませもするさすが確固たる高密度内容。
★トラック毎に曲調は刻々と変移し、大凡のところは柔和で唯美的な取っ付きやすい浪漫詩人面と、甘さを排し苦味走ったスパイス感ある辛口の硬質的瞑想者面、の両極端を自在に往来する、しかもその両方に共通して独特の奥深い"詩情"が失われることのない結構ドラマティックな半内省型大河ストーリー風の流れが精細に、緻密に形作られており、聴く者は瑞々しい緊張をもって実に豊かな感動が味わえるという寸法だ。
★端麗優美で雅やかな吟遊牧歌調のロマネスク・ポエット体質っぽい側面(例によって「待ってました!」のゴスペル・フォーキーな節回しとかもちゃんと出てきて、そこら辺では聴者をキッチリ安心させてくれる)も殊の外爽やかで素晴らしいが、本盤における独自性、その真価はむしろより辛辣めのハードな局面にあっての、現代クラシックに接近したメカニカルな行き方や、(アコースティック・ピアノ1台を思うままに駆使しての)ジャレット流アンビエント・ミュージックを目指したともとれるミニマルな語り口、にこそ遺憾なく発揮されている感があり、加えて、Part VIIIでの開き直ったかのようなストレートなブルースマンぶり(ド真っ当すぎる!?)にも新鮮にして醸熟なる旨味がしっかり認められて、これがまた好インパクト。
01. パート I
02. パート II
03. パート III
04. パート IV
05. パート V
06. パート VI
07. パート VII
08. パート VIII
09. パート IX
10. 虹の彼方に
キース・ジャレット (solo piano)
2016年7月9日オーストリア-ウィーンの学友協会黄金大ホールでのライヴ録音
レーベル:
Universal Music Japan ECM
在庫有り
国内盤UHQ-CD
VIDEO