★ここ20数年来日本のジャズ・シーン第一線でリーダー&サイドとも超多忙を極める八面六臂ぶりを見せてきた、オールラウンドな現代トランペットの雄:類家心平(1976年青森県八戸市生まれ)の、今回は意表を衝いて完全ソロ演奏を通した即興色濃い野心的一編。
★トランペット本来のシャープで伸びやかな美しい咆哮と微妙に掠れ息漏れするような裏声っぽい鳴り様、とを細かく交差させながら、ある時は朗々と真っ直ぐに哀歓を歌い上げ、またある時は若干アブストラクトに奇妙な袋小路に入り込んでも見せる、全般にエッジは効いているがしかし情感を決してないがしろにしないビター・テイストの翳りある硬質エモーショナル・プレイが静寂の中で鮮やかに炸裂して、迫真スリル満点に昂揚させ、また奥深く感動させる密度の濃い敢闘内容。
★1トラック1トラックは比較的簡潔手短にまとめられ、全くのフリー・インプロヴィゼーションを基調としつつ合間合間に"楽曲"=コンポジションもインサートされる、中々ソリッドでシリアスな道程が緊張感をもって鋭く展開してゆくが、類家の語り口はフリー寄りの抽象主義っぽさを多分に垣間見せるも完全なフリー派〜完全なインプロヴァイズド・ミュージック派とは趣を違え、かと云ってバップとも距離を置く(例外的に#08とか#15辺りではバップ系のメロディスト、或いはバップ系のバラード・プレイヤーらしく端麗美麗に浪漫を唄ってホッと一息つかせる)、大雑把に区分するならソロ即興というフォーマットも含めフリーの範疇に入るのかも知れないが一聴フリーのようでフリーになりきらない人間臭さやストーリーテリングの巧みさが認められ、メロディー・センスの潤沢さも示されながら所謂"ハード・バッパー"とは一線を画す、絶妙なバランスの今までにない音キャラが立ち現れていて殊の外瑞々しい。
★異形な奇怪さに徹した#09や数曲での電子音響の導入もアンビエントとは行かず結構とげとげしいノイジー傾向に繋がっていたりと、大凡のところ甘さを排したキレのあるシビアな行き方に没頭するものの、後には不思議と味のある情緒が余韻として残る、という唯一無二でクセになるユニークな逸編。
01. Improvisation #1
02. Improvisation #2
03. Splicing
04. Improvisation #3
05. Dear
06. Improvisation #4
07. Improvisation #5
08. Coerulea
09. Improvisation #6
10. Improvisation #7
11. Amber Gris
12. Improvisation #8
13. Improvisation #9
14. Improvisation #10
15. Improvisation #11
類家 心平 (solo trumpet) (sampler or electronics or keyboard on 07, 10, 12, 13, 14)
2025年6月10日 東京・岡本太郎記念館(東京都港区南青山)録音
レーベル:
Days of Delight
秋穂有り
国内制作CD