CATFISH RECORDS

★ニューヨークの主にアヴァンギャルドなジャズ・シーンで精力的に活躍し、リーダー・アルバムも2008年の第一作を皮切りにFirehouse 12やEMI、Relative Pitchからコンスタントに着々とリリースを重ねてきた、進歩派・個性派な女性ギターの鬼才：メリー・ハルヴァーソン(1980年マサチューセッツ州ブルックライン生まれ)の、本盤は、ここ近年の主力ユニットであるヴォイスや管楽器入りのコンボ：Code Girl、による2作目、＝今回は英国の大御所：ロバート・ワイアットがヴォーカルで3曲にゲスト参加。

★陰影深く艶やかでメロウな憂きリラクゼーションや渋いグルーヴを体現していたかと思えば、いつしか奇妙によじれた混沌へ入り込んだりもする予断を許さないギターの暗躍始め、妖艶でアンニュイ&ミステリアスな夢心地のムーディー傾向と幾分か異形で怪しいフリー寄りのアプローチを滑脱に交差させる女性ヴォイス、わりかしストレートにハード・バピッシュな哀愁節をノリよく歌うコクの効いたトランペット&テナー、そして肩の力の抜けた飄々たる枯淡のロック・バラードを綴る男性ヴォーカル(ワイアット)、らが渾然と一体化・ゴッタ煮化して、カオスのようであり上手く劇的に整理されてもいる、瑞々しいサスペンスと熟れた旨味に満ちた全くワン&オンリーのちょっと神秘な抒情詩世界を鮮麗に描き出した、さりげなく極めて密度の高い敢闘内容。

★今日流らしくリズミックなビートに乗せたジャズ・ロックのアップトゥデイト版、或いは独自のファンク・グルーヴ路線、めいた、新鮮な驚きと興奮やスリルそして感動に溢れた行き方が中々ドラマティックに続くが、ヴォイスやヴォーカルに多々スポットが当てられることにより「歌物」っぽい風趣が先ずは際立ち、しかし同時並行的にトランペット辺りがバップ色濃い超真っ当ブロウを力強く炸裂させることで「どジャズ」・テイストが強まったり、リーダー:ハルヴァーソン(g)の、適度にヒネクレたシュール&アブストラクトな辛口インプロやロック系エレクトロニカ趣向だったり牧歌的フォーキー調だったりの無双ワザが繰り出されて、ちょっと暗くて怪異なアンダーグラウンド・カラーもしくはコンテンポラリー・グルーヴィー風味がジワジワ濃厚になったりと、道程は各人の個性の熾烈な鬩ぎ合いの連続によって刻々と多彩に様相・情趣を転じて、迫真の緊張が一瞬も途切れない。

★ハルヴァーソン(g)の、女性ヴォイス(ヴォーカル)のバックでしっとり潤んだムーディーな端麗ロマンティック・プレイを展開して優しく座を和ませていたところが、しかし次第にストレンジでビザールな壊れたような狂気孕む奇形の抽象フレージングへシフトして空間全体を不敵に掻き回して見せたりと、その、美と乱調を微細に融け合わせたダーク・パンキッシュな個性のあり様は何とも蠱惑的で、また、「ごく普通のジャズ係」を一手に担うオファリル(tp)や、マトモなバップ・ジャズと妖しい夢幻トリップ音楽の間を自在に往来するグランド(ts)、らの活躍も美味しく光る。英国とかのプログレッシヴ系コンテンポラリー・ジャズにも底通する大層ユニークな逸品。

1. The Lemon Trees
2. Last-Minute Smears
3. Walls And Roses
4. Muzzling Unwashed
5. Bigger Flames
6. Mexican War Streets (Pittsburgh)
7. A Nearing
8. Artlessly Falling

Amirtha Kidambi (voice)
Adam O'Farrill (trumpet)
Maria Grand (tenor saxophone, voice)
Mary Halvorson (guitar)
Michael Formanek (bass)
Tomas Fujiwara (drums) (beer cans on 2)
Robert Wyatt (vocal on 1, 3, 5)

2019年12月8日&9日録音

レーベル：Firehouse 12

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デジパック仕様CD